外部専門家の活用ガイドライン(5/5)(国土交通省)

5.外部専門家の適正な業務遂行の担保・組合財産の保護のための措置
・ 外部専門家による管理組合財産の損害を未然に防ぐための措置や、事故・事件によ
り管理組合財産に損害が発生した場合の保護措置は以下の表のように整理されます。
(次ページより、各項目の内容について、解説していきます。)

トラブルの対応の方向性 具体的な措置の
未然防止 (1) 外部専門家による独断専横的行為・利益相反等の防止 ①外部専門家に対する監視・チェック体制 1)理事会等での定期書面報告(チェック)
2)監事による監視
3)外部監査、派遣元団体による内部監査等
②外部専門家の権限の制限 1)外部専門家への議決権の非付与
2)代表権の制限
3)一定額以上の支出を伴う契約行為の厳格化
③解任を可能としておくための措置 1)管理規約条文における管理者〔理事長〕名等
の固有名詞の排除
2)解任に向けた総会の招集要件の緩和
3)区分所有者名簿等へのアクセスの確保
④利益相反等管理組合の利益を損なう行為への対応 1) 工事等の発注における業者選定等の透明性確保
2)外部専門家と管理組合の利益が相反する取引の制限
3)管理組合からの報酬以外のリベート等の収受禁止
(2) 多額の金銭事故・事件の防止 ①口座の適切な管理 1)財産の分別管理の徹底
2)通帳・印鑑等の保管体制(派遣元等による銀行印保管、理事長印と銀行印の分離、キャッシュカードの作成禁止等)
3)修繕積立金の積立方式の工夫(複数の役員の確認がなければ現金化できない方式等)
②出納業務の不実施 1)出納業務の対象外化
2)現金の取扱いの禁止
③適切な財産管理状況の把握 1)監事等による組合財産状況に関する理事会・総会への定期報告義務
2)通帳原本等の定期的な確認
発生後の保護措置 (3)事故・事件が起きてしまった場
合の組合財産の保護措置
①保険・補償制
度の活用
1)外部専門家である管理者(理事長)を被告とする場合の訴訟手続の例示
2)裁判以外の解決手法(資格者団体による懲戒制度等)
②紛争解決手続の活用 1)外部専門家である管理者(理事長)を被告とする場合の訴訟手続の例示
2)裁判以外の解決手法(資格者団体による懲戒制度等)

(1)外部専門家による独断専横的行為・利益相反等の防止
①外部専門家に対する監視・チェック体制
1)理事会等での定期書面報告(チェック)
・ 外部専門家が役員、特に管理者に就任する場合、全ての意思決定を任せるのではなく、理事会や総会による業務執行状況の監視・チェック機能を担保する必要があります。ただし、機動性を確保するためには、できる限り理事会による監視・チェック体制を残しておくことが望ましいでしょう。なお、理事会がない場合に、数名の監査役(世話人と呼ばれている場合もある)を選任する実例も見受けられます。
・ これを担保するため、外部専門家の業務執行状況や収支状況等について、書面による定期的な報告を外部専門家に義務付けておくことが必要であると考えられます。
報告の内容は、通常総会で決定した事業計画や総会・理事会決議事項等の実施状況、組合員等からの提案や苦情の有無・内容、報告対象期間内における収支状況等が考えられます。
報告先は、理事会とすることが一般的でしょう。定期報告のほか、必要に応じ、管理組合側から報告を請求したときは報告しなければならない義務を課しておくことが考えられます。

2)監事による監視
・ 法人化された管理組合においては、監事を設置しなければなりませんが(区分所有法第50 条)、法人化していない管理組合においても、理事の業務執行状況を監視する重要な機関として、監事の役割は重要であり、標準管理規約第41 条においても、臨時総会の招集権などの強い権限が与えられています。このため、区分所有者の中から監事を選定しておき、役員に就任した外部専門家の業務執行状況を監視することは、監視・チェック体制の確保の面から有効です。
・ 監事は、可能な限り区分所有者から選任することが望ましいものの、区分所有者から選任が困難な場合、又は複合用途など管理の難易度の高いマンションにおいては、監査業務の事務負担が大きく、かつより高度な知見を必要とする場合もあり、複数の監事を設置し、区分所有者と専門家(マンション管理士、税理士等)から選任することも考えられます。
※ 監事の行う監査の具体的内容については、『管理組合監査 主要項目チェックリスト』((一社)マンション管理業協会 H29.3 改正)が参考になります。

3)外部監査・派遣元団体による内部監査等
・ 監事を区分所有者から選任できない場合や、理事会を設置しない管理組合においては、機動的な監視・チェック体制を確保するため、外部機関による外部監査を行う例もあります。管理業者が管理者に就任する実例で、マンション管理士や公認会計士等19による外部監査を行っている例も見られます。
・ ただし、外部専門家に対する監査業務を監査法人や弁護士等別途専門家に委託する場合、監査業務に対する報酬が追加的に生じるため、監視・チェックの水準と経済的な負担との兼ね合いを踏まえて検討する必要があります。
・ 法人・団体等から専門家の派遣を受ける場合、業務委託契約において、専門家に対する派遣元の法人・団体による内部監査や報告徴収を行うことを義務付けておくことも考えられます。
(なお、2.(2)②<外部専門家の選任手続等に関して細則で定めておくべき事項の例>参照)

②外部管理者の権限の制限
1)外部専門家への議決権の非付与
・ 理事会の議決権については、管理組合(区分所有者)としての主体性を確保する観点から、(理事会の定数にもよりますが、)管理規約において、区分所有者以外の役員が議決権を持たないとする規定を設けることも考えられます。
(なお、3.(1)<外部専門家の要件に関して細則で定めておくべき事項の例>参照)
・ 総会の議決権の代理行使については、実際には出席しない組合員の議決権行使は、議決権行使書(各議案の賛否を記載した書面)によるほか、代理人(代理権を証する書面である委任状により授権された者)による方法が広く行われており、議長・理事長を代理人とすることも多いと考えられます。
標準管理規約では、代理人の範囲は当該組合員の親族や他の組合員に限定しているため(第46 条第5 項)、外部専門家である理事長を代理人とすることはできません。
総会で外部専門家の意思が強く反映されすぎることを防ぐ観点からは、「議決権行使書」によることを原則とするほか、実例では、外部専門家である理事長には委任できないルールとしているものも見受けられます。
なお、外部専門家である理事長を含めておくことが必要なやむを得ない事情がある場合は、代理人とするよう規約改正しておく必要があります。

2)代表権の制限
・ 外部専門家が理事長(管理者)に就任する場合に、一定の重要な行為に関わる代理権の制限を管理規約や細則に定めることも考えられますが、当該制限は、善意の第三者には対抗できないことに留意が必要です(区分所有法第26 条第3項)。このため、例えば、外部専門家が理事長として第三者と取引を行う際には、当該理事長が有する代理権の範囲内の行為であることを証明する書類として、管理組合が発行する証明書や、代理権の制限内容が分かる規約等の書面を添付することを義務付けることを、規約又は契約で定めておくことが考えられます。

・ なお、外部専門家である理事長と管理組合の利益が相反する事項については、理事
長は代表権を有しないこととし、監事又は理事長以外の理事が管理組合を代表するこ
ととすることが考えられます(標準管理規約第38 条第6 項)
3)一定額以上の支出を伴う契約行為の厳格化
・ 修繕積立金会計からの支出を伴う契約行為は、一般的に、総会決議を経ることが必須とされています。しかし、外部専門家である理事長等による過剰・不要な契約を未然に防止する観点から、管理費会計からの支出のみを伴う契約行為であっても、あらかじめ定めた一定金額以上の支出を伴う場合は、理事会や総会の承認の必須とするなど、標準管理規約よりも契約行為の意思決定の手続きを厳格化しておくことも考えられます。ただし、手続きを過度に課すことで事務の負担増大や遅延につながるため、契約行為の機動性を確保しつつ、適切に運用されるルールを整備することが重要です。
(なお、2.(2)②<外部専門家の選任手続等に関して細則で定めておくべき事項の例>参照)

③解任を可能としておくための措置
1)管理規約条文における管理者〔理事長〕名等の固有名詞の排除
・ 管理規約に理事長・管理者に就任する者の固有名詞を明記してしまうと、区分所有者から解任を行うための総会の招集や当該管理規約の見直し(組合員・議決権総数の4分の3以上の同意が必要)など、解任が極めて困難となることから、管理規約に固有名詞は記載しないこととします。

2)解任に向けた総会の招集要件の緩和
・ 組合側から外部専門家の解任を求める場合には、組合員・議決権総数の5分の1以上の同意に基づき総会を招集し(区分所有法第34条、標準管理規約第44 条)又は監事の臨時総会招集権(標準管理規約第41 条)に基づき総会を招集し、普通決議により管理者を解任、新管理者を選任することが想定されます。
・ 管理運営に対する関心の低い組合員が多い、賃貸化率が高い等により非居住の区分所有者が多いなどの事情があるマンションにおいては、総会を招集しやすくするために、必要に応じて、組合員の総会招集のための要件を、組合員・議決権総数の10分の1以上の同意などにあらかじめ緩和しておくことも考えられます。その場合、管理規約改正の決議(区分所有者及び議決権の4分の3以上の特別多数決議)も必要です。

3)区分所有者名簿等へのアクセスの確保
・ 区分所有法上、規約や議事録の保管責任者は管理者となっており、組合員等の利害関係者に閲覧させる義務も規定されています(区分所有法第33 条、第42 条)。実際の管理規約でも帳票類等の各種書類の保管業務は、外部専門家である理事長(管理者)の業務とされていることが多いと考えられます(標準管理規約第64 条)。
・2)に記載された総会を招集する場合、区分所有者名簿が必要となる場合は、標準管理規約第64 条の閲覧権の行使をすることが考えられます。
・ このほか、管理組合にとって重要な書類が紛失等されないよう、(公財)マンション管理センターが提供する「マンションみらいネット」などを活用し、信頼できる第三者のシステム上で、書類を電子化して蓄積しておくことも考えられます。
④利益相反取引等管理組合の利益を損なう行為への対応
・ 管理組合役員は、マンションの資産価値の保全に努めなければならず、管理組合の利益を犠牲にして自己又は第三者の利益を図ることがあってはいけません。とりわけ、外部の専門家の役員就任を可能とする選択肢を設けたことに伴い、このようなおそれのある取引に対する規制の必要性が高くなっています。
・ 外部管理者と管理組合の利益相反取引に該当するものとしては、管理者が特別な利害関係を有する業者に工事・物品等を発注内容に相応しない価格で発注する、発注先からリベートを授受するなどの取引が挙げられます。こうした行為は管理組合の利益を損なうリスクが懸念されます。この点、平成28 年3月に改正されたマンションの管理の適正化に関する指針においても、「工事の発注等については、利益相反等に注意して、適正に行われる必要がある」等と指摘されています。
1)工事等の発注における発注先選定等の透明性確保
・ 上述のようなリスクへの対応として、特に、高額となりがちな修繕工事等の一定金額以上の発注を行う場合には、総会又は理事会の決議を必須とするとともに、発注先アクセスにおいて透明性を確保する措置を義務付けておくことが有効であると考えられます。特に、当該取引の相手先を外部専門家が推薦した場合には、候補として浮上した理由を明らかにしておくことにより、取引の相手先の選定プロセスを公平・透明化することが考えられます。
・ なお、平成29 年1 月27 日、国土交通省から「設計コンサルタントを活用したマンション大規模修繕工事の発注等の相談窓口の周知について」が通知され、このような観点に留意した取組事例等が紹介されていますので、参考にして下さい。
2)外部専門家と管理組合の利益が相反する取引の制限
・ 利益相反取引については、標準管理規約でも理事会の事前承認を経るルールを設けています。このほか、あらかじめ、外部専門家に対して、自己の所属や経歴の詳細等の利害関係の有無の判断材料となる情報の申告を求めたり、利益相反取引に該当し得る取引が行われようとしている場合には外部専門家からの自己申告を義務付けたりしておくことも有効であると考えられます。
<標準管理規約における利益相反取引防止に係る規定>

(利益相反取引の防止)
第37条の2 役員は、次に掲げる場合には、理事会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない。
一 役員が自己又は第三者のために管理組合と取引をしようとするとき。
二 管理組合が役員以外の者との間において管理組合と当該役員との利益が相反する取引をしようとするとき。
(理事長)
第38条
6 管理組合と理事長との利益が相反する事項については、理事長は、代表権を有しない。この場合においては、監事又は理事長以外の理事が管理組合を代表する。
(理事会の会議及び議事)
第53条
3 前2項の決議について特別の利害関係を有する理事は、議決に加わることができない。
【コメント】
第37 条の2関係
役員は、マンションの資産価値の保全に努めなければならず、管理組合の利益を犠牲にして自己又は第三者の利益を図ることがあってはならない。とりわけ、外部の専門家の役員就任を可能とする選択肢を設けたことに伴い、このようなおそれのある取引に対する規制の必要性が高くなっている。そこで、役員が、利益相反取引(直接取引又は間接取引)を行おうとする場合には、理事会で当該取引につき重要な事実を開示し、承認を受けなければならないことを定めるものである。
なお、同様の趣旨により、理事会の決議に特別の利害関係を有する理事は、その議決に加わることができない旨を規定する(第53条第3項)とともに、管理組合と理事長との利益が相反する事項については、監事又は当該理事以外の理事が管理組合を代表する旨を規定する(第38条第6項)こととしている。
第53条関係
⑦ 第3項については、第37条の2関係を参照のこと。

<利益相反取引を承認する場合の確認事項の例>

■確認事項
・「開示すべき重要な事実」(標準管理規約第37条の2)の例
取引の相手方、目的物、数量、価格、取引期間、取引により得る利益など、取引内容の中で、承認すべきか否かの判断に資する部分
■手続等
・一定額の以上の取引について、利益相反取引に該当するおそれがある場合は、役員等は、所定の様式で自己申告しなければならないこととする 等

(なお、2.(2)②<外部専門家の選任手続等に関して細則で定めておくべき事項の例>参照)

3)管理組合からの報酬以外のリベート等の収受禁止
・ また、不正の防止のためには、外部専門家が、管理組合からの支払われる正当な報酬以外に、いわゆるリベート・マージン等、管理組合の取引先業者等からの不透明な利益の収受等を行わない旨を、約束させておくことも有効であると考えられます。
具体的には、外部専門家として管理組合から受託した業務に関して、管理組合の承認を得ずに、管理組合に紹介した業者等から紹介料・手数料・仲介料等の対価を受領又は支払いをしないこと、適正な業務の遂行に影響を与えるような便宜・利益の供与又は供応を利害関係者等から受けないこと、さらにこれらに違反した場合に損害賠償や違約金を請求すること、契約の解除事由となること等を、業務委託契約書に明記することなどが望ましいと考えられます。
(なお、4.(1)①<業務委託契約の主な規定事項>参照)

(2)多額の金銭事故・事件の防止
①口座の適切な管理
1)財産の分別管理の徹底
・ 外部専門家が理事長に就任する場合、管理組合の口座名義は理事長である当該外部専門家の名義となりますが(一般的には「○○マンション管理組合理事長○○」といった口座名義となっていることが多いと考えられます。)、当然、管理組合の財産と、外部専門家自身の固有財産、又は理事長に就任している他の管理組合の財産とは、必ず、分別して管理する必要があります。
2)通帳・印鑑等の保管体制
・ 一般的に、管理組合の預金口座(特に修繕積立金等の保管口座)の印鑑は理事長が保管していることが多いと考えられます。しかし、外部専門家が理事長に就任する場合は、外部専門家による着服等を防ぐため、印鑑を施錠の可能な場所(金庫等)に保管して印鑑の保管と鍵の保管を理事長と他の役員(区分所有者)で分担する(標準管理規約第62 条関係コメント)、金融機関届出印を管理組合印(理事長印)とは別に専用印を作成し区分所有者が保管する、通帳と印鑑の保管者を分けていずれか一方の保管者を区分所有者の中から選任しておく(あるいは通帳の管理は管理業者に委託することを条件とする例も多く見られます)、キャッシュカードの作成を禁止する等の措置をとることが考えられます。特に修繕積立金口座の管理については、派遣元等で印鑑を管理するほか、ここで列挙したような保管上の措置を講じておくことが望ましいと考えられます。
・ なお、管理組合の預金口座の通帳・印鑑の管理を、契約上、外部専門家の業務の対象外とし、一切行わないルールとしている例もあります。
(なお、4.(1)①<業務委託契約の主な規定事項>参照)

3)修繕積立金の積立方式の工夫
・ 管理組合財産の中でも、修繕積立金は特に多額であり、一旦金銭事故・事件が発生するとその被害額は億円単位にのぼることもあるなど、特に個人の外部専門家による着服等の事件の場合、被害の回復が十分図られないことも懸念されます。そこで、修繕積立金については、現金化のために踏むべき手続が多い等なるべく現金化が困難な方式を活用して、修繕積立金を運用することが望ましいと考えられます。
※平成25 年度のマンション総合調査によれば、修繕積立金の運用方法として、「普通預金」79.6%、「定期預金」65.2%、「決済性預金」22.9%、「マンションすまい・る債」21.2%、「積立型マンション保険」15.2%となっている。
・ 例えば、理事長一人の意思表示だけでなく、理事長以外の役員の意思確認が取れなければ現金化を認めない「マンションすまい・る債」※のような制度を活用することが考えられます。
※「マンションすまい・る債」は、住宅金融支援機構が修繕積立金の計画的な積立てと適切な管理を支援する目的で発行され、1口50 万円として1回当たりの積立口数を複数口とすることができ、マンション全体の修繕積立金額の範囲内の口数まで積立てが可能である。応募に当たっては、代表権等を確認する書類として、総会議事録(必須)や理事会の議事録等の提出を求め、応募内容の審査の際に申請者の代表者(理事長等)について確認が行われている。また、初回の債券発行から1年以上経過した後は、共用部分の修繕工事費用等に充てるため、買入請求(中途換金の申出)を行うことができる。代表者による買入請求がなされた際には、同機構による審査及び承認が必要となり、代表者(理事長等)以外の会計担当役員等に買入請求の意思確認が行われている。
②出納業務の不実施
1)出納業務の対象外化
・ 外部専門家による金銭事故防止のため、個人である外部専門家が理事長や会計担当理事に就任する場合においては、出納業務については業務の対象外とし、管理業者への委託を義務付け、金銭事故防止に努めることが望ましいと考えられます。
(なお、4.(1)①<業務委託契約の主な規定事項>参照)

2)現金の取扱いの禁止
・ 現場での金銭事故・事件の防止のためには、管理費・修繕積立金や使用料の徴収や、物品購入・工事発注等において、出納はすべて口座振替・振込等によるものとし、出納業務に関わる者による現金の取扱いを禁止することが望ましいと考えられます。最近では、口座振替・振込だけでなく、電子決済等を活用することにより現金取扱いを不要としているマンションも現れ始めています。
・ なお、金銭の取扱いを、外部専門家の業務の対象外とし、一切行わない旨を契約書で規定している例もあります。
(なお、4.(1)①<業務委託契約の主な規定事項>参照)
③適切な財産管理状況の把握
1)監事等による組合財産状況に関する理事会・総会への定期書面報告義務
・ 外部専門家である理事長や会計担当理事等から理事会への定期書面報告(5.(1)①1)参照)のほか、区分所有者である監事(又は外部監査人)による定期的な(月次、半期、決算期)会計のチェック及び理事会(理事会が設置されない場合は組合員)への報告が重要です。また、当然ながら、会計資料の作成者による自己監査は、禁止すべきです。
2)通帳原本等の定期的な確認
・ 外部専門家が理事長や会計担当理事である場合、通帳や金融機関発行の預金残高証明書の原本を、定期的に、監事(又は外部監査人)自らが確認し、預金口座からの不正な引き出しがない旨や、会計帳簿の原本(見積書、請求書、領収書等の証跡を含む)との整合性を確認することが重要です。
・ 上記確認のためには、監事(又は外部監査人)による、通帳原本への記帳の定期的な実施を、ルール化しておくことが有効であると考えられます。
・ 実際に、会計担当理事が預金残高証明書の写しを改ざんして他の役員を欺き、組合財産の着服を長期にわたり隠し通していた事件において、通帳の原本の確認さえ別の役員が行っていれば防げただろうと判断された裁判例もあります。

(3)事故・事件が起きてしまった場合の組合財産の保護措置
①保険・補償制度の活用
1)過失による損害(専門職業人賠償責任保険等)
・ 外部専門家が、役員としての職務遂行上の過失により管理組合に経済的な損害を与えた場合への対応として、役員等に就任する外部専門家に対して、賠償責任保険への加入など補償能力を担保するための措置を義務付けることを原則とすべきです。(なお、3.(1)<外部専門家の要に関して細則で定めておくべき事項の例>参照)
・ 弁護士や公認会計士、税理士等の資格者の団体では、資格者を被保険者とする賠償責任保険制度を設けていますが、管理組合の役員等に就任する業務が、これら保険の対象業務になっているとは限りませんので、注意が必要です。
※ 例えば、全国弁護士共同組合連合会では、全国弁護士協同組合連合会会員および弁護士法人を対象とした賠償責任保険を設けており、弁護士法第3 条に規定される業務に伴う賠償に対応している。(外部専門家業務が対象となるかどうか注意が必要です。)日本マンション管理士会連合会では、マンション管理士を対象とした賠償責任保険を設けており、業務行為、身体障害、財物障害、受託物、人格権侵害・個人情報漏洩による賠償や、外部管理者に就任した場合の補償等に対応している。日本公認会計士協会では公認会計士、会計事務所及び監査法人を対象とした賠償責任保険を設けており、公認会計士法第2 条業務のうち税務業務、マネジメント・サービスは除く業務に伴う賠償に対応している。(外部専門家業務が対象となるかどうか注意が必要です。)
・ なお、組合内部の対立による訴訟が起きている現状に鑑み、役員の担い手確保の観点から、区分所有者である役員を保険の対象とした、管理組合役員向けの賠償責任保険も一部登場していますが、役員に就任した外部専門家は対象外となっています。管理組合と外部専門家間のトラブルが想定されることからも、管理組合の負担で外部専門家を保護する必要性は低く、外部専門家自らが財産保護措置を取ることが望ましいと考えられます。

2)故意・重過失等による損害(派遣元の補償、資格者団体による保険等)
・ 故意・重過失により損害を与えた場合など、一般の保険制度ではまかなえない場合も考えられます。このような場合、損害を与えた当該外部専門家が法人である場合や、法人等から派遣された者である場合については、当該法人に補償を求めることが考えられますので、財産的基礎の充実した法人と契約し、損害の補償について規定しておくことも考えられます。
・ 他方、個人の国家資格者等である外部専門家の場合、このような賠償が可能な財産的基礎の充実した会社等の組織に所属していないことも多いと考えられます。このようなケースに対応するため、資格者団体による保険制度の活用や自主的な積立(見舞金)制度などの構築が望まれます。

②紛争解決手続の活用
1)外部専門家である管理者(理事長)を被告とする場合の訴訟手続の例示
・ 外部専門家との間で、管理組合の財産毀損等を含むトラブルになった場合、最終的な解決手段は、民事訴訟となります。区分所有法上は、基本的に、管理者が管理組合側を代表して原告・被告となることを想定した規定を置いていますので、管理組合側と外部専門家である管理者の間で紛争になった場合の訴訟手続に留意する必要があります。
・ 管理組合の財産が毀損した場合等において、役員でない者を含む各区分所有者が、管理組合側に立って、外部専門家である管理者に対する損害賠償請求の訴訟提起を行う方法は、おおまかに下記のとおり4つの方法が考えられます。
大多数の区分所有者が無関心等で一部の区分所有者しか主体的に行動できない場合はア)やイ)の方法、一定数の区分所有者が関心を持ち総会決議等が可能な場合はウ)やエ)の方法が考えられます。なお、下記に加えて、監事が、必要な臨時総会を招集する方法もあります。

損害賠償請求の訴訟提起の方法 具体的な手続き
ア)区分所有者が裁判所に管理者の解任請求の訴訟を提起をすると共に,職務執行停止及び仮管理者選
任の仮処分の申立てをし、仮管理者が損害賠償を請求(著しい損害等を避ける必要がある場合の対応)
・区分所有者は,区分所有法第25 条第2項に基づき裁判所に対して管理者(理事長)の解任請求の訴訟を提起すると共に,管理者の職務執行停止及び仮管理者選任の仮処分の申立てを行う(区分所有者は管理者選任の仮処分の申立てまでを一人の個人で行うことができる。)。
・仮に職務執行停止の仮処分の申立てが認められると、管理者(理事長)の職務が執行停止され、裁判所はそれに代わって職務を執行する者を仮に選任する。
・裁判所から選任された仮管理者は、「①区分所有法第26 条第4項に基づき、総会決議で区分所有者及び議決権の各過半数の賛成を得る」、または「②標準管理規約第67 条第3項に基づき理事会の決議を経る」こと等により職務を執行停止された管理者(理事長)に対して損害賠償請求の訴訟を提起できる。
イ)区分所有者が裁判所に管理者の解任請求訴訟を提起し,その請求が認容された後に,仮管理者選任の仮処分の申立てをし、仮管理者が損害賠償を請求 ・区分所有者は,区分所有法第25 条第2項に基づき裁判所に対して管理者(理事長)の解任請求訴訟を提起することができる。裁判所がこの請求を認容し,管理者(理事長)が不在となった後,区分所有者は,裁判所に対して仮管理者選任の仮処分の申立てを行う。
・裁判所から選任された仮管理者は、「①区分所有法第26 条第4項に基づき、総会決議で区分所有者及び議決権の各過半数の賛成を得る」、または「②標準管理規約第67 条第3項に基づき理事会の決議を経る」こと等により総会決議を経て解任された管理者(理事長)に対して損害賠償請求の訴訟を提起できる。
ウ)区分所有者が5 分の1 総会を招集し、管理者を解任し、選任された新管理者が損害賠償を請求 ・区分所有者が区分所有法第34 条第3項に基づく総会(区分所有者の5分の1以上で議決権の5分の1以上を有する者は総会の招集を請求できる。)を招集し、普通議決により管理者を解任できる。
・総会で新管理者を選任する。
・新管理者は、「①区分所有法第26 条第4項に基づき、総会決議で区分所有者及び議決権の各過半数の賛成を得る」、または「②標準管理規約第67 条第3項に基づき理事会の決議を経る」こと等により旧管理者に対して損害賠償請求の訴訟を提起できる。
エ)区分所有者が5 分の1 総会を招集し、総会決議で訴訟追行権を与えられた区分所有者が管理者に対
して損害賠償を請求
・区分所有法第34 条第3項に基づく総会(区分所有者の5分の1以上で議決権の5分の1以上を有する者は総会の招集を請求できる。)において、区分所有者の誰かに訴訟追行権を与える。
・訴訟追行権を与えられた者が、当該管理者に対して損害賠償請求の訴訟を提起できる場合もあります、(明文規定なし(※))。

(※)訴訟追行に関する授権に関して、『規約の定めまたは集会の決議によって、管理者以外の者を訴訟追行者とすることができるか。管理者が当然に訴訟追行者となるのではなく、規約または集会の決議による特別の授権に基づいてのみ管理者が訴訟追行者となるという本項の趣旨から考えると、肯定的に解すべきだろう。もっとも57 条3項とは異なり本条項では「管理者又は集会において指定された区分所有者」と規定していないことから否定する余地もあるが、本条はもっぱら「管理者」の「権限」について定めた規定であることから、特に、「集会において指定された区分所有者」を明示していないだけであり、特に管理者以外の者を訴訟追行者とすることを否定したものと解すべきではなかろう。』と解されている(稻本洋之助 鎌野邦樹「コンメンタール マンション区分所有法」第3版(日本評論社)、p.165)。
・ なお、管理組合としてではなく、個人として受けた損害の賠償請求等をしたい場合は、上記のような手続を経ずとも、個人として訴訟を提起することが考えられます。
2)裁判以外の解決手法(資格者団体による懲戒制度等)
・ トラブルの解決に向け、外部専門家と管理組合との対立が深刻な場合は法的拘束力を持つ訴訟を提起することが望ましいものの、紛争内容や対立の程度に応じて裁判によらない紛争解決手続きを行うことも考えられます。例えば、弁護士が外部専門家として役員に就任した場合、その紛争内容が金銭に関わるものであれば、弁護士会の紛議調停制度の活用が想定されます。
・ このほか、弁護士、公認会計士、税理士、司法書士については、国又は専門家団体において懲戒制度が設けられており、事件依頼者など関係者に限らず何人も懲戒請求が可能であるため、外部専門家の業務遂行により管理組合の財産に損害が生じるなど、専門家としての資質に疑問がある場合には、区分所有者から請求を行うことも考えられます。マンション管理士の団体の中にも、同様の制度を設けているものがあります。
・ 外部専門家の職務執行状況等についてトラブルが発生した場合、上記のような資格者団体等の相談窓口に相談を寄せ、公平・中立な観点から助言を得ることが望ましいでしょう。このほか、マンション管理に関する裁判外紛争処理手続(ADR)を活用することもあり得ます。